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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5701号 判決

主文

一  原判決中控訴人田邊寿滿子に関する部分を取り消す。

二  被控訴人の控訴人田邊寿滿子に対する訴えを却下する。

三  原判決中控訴人城南住宅組合に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人と控訴人城南住宅組合との間において、被控訴人が控訴人城南住宅組合に賃貸している原判決別紙物件目録記載の土地の賃料は、平成八年八月一日以降一か月一四万〇二八二円であることを確認する。

2  被控訴人の控訴人城南住宅組合に対するその余の請求を棄却する

四  控訴人城南住宅組合のその余の控訴を棄却する。

五  被控訴人と控訴人田邊寿滿子との間で生じた訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とし、被控訴人と控訴人城南住宅組合との間で生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人城南住宅組合の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも披控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  当審における控訴人らの補充主張

1(一)  本件土地の賃料は、平成八年一一月二日、同年四月一日にさかのぼって一坪当たり月額四〇〇円に増額され、本件土地に対する固定資産税などの増額に対応し、また、近傍類似の土地の賃料も本件土地と同様の賃料であるから、本件土地の賃料が不相当とはいえず、本件では借地借家法一一条の賃料増額の要件を欠いている。なお、仮に一時的に公租公課が賃料を上回ったとしても、単にそれだけで賃料が不相当であるとすることは賃貸人と賃借人の公平を図ろうとする同法の趣旨に反する。

(二)  被控訴人は、本件土地につき通常の借地とは異なって借地人及び転借人がおり、借地人が個人ではなく控訴人組合という一定の歴史的特殊性を持った団体であることを知って本件土地を取得したものである。そして、控訴人組合と本件土地も含めた周辺の土地の地主との賃貸借契約では、毎年行われる交渉によってすべて一律に賃料を決定することとされ、これによって本件土地の賃料も周辺の借地と同様一坪当たり月額三二三円と定められていた。被控訴人も賃料につき右の拘束を受けた契約上の地位を承継したものであり、右賃料額の合意は被控訴人に対しても効力を有している。したがつて、この意味でも本件の賃料増額の意思表示はその要件を欠いている。

2  本件鑑定が採用している期待利回り二・五パーセントは高率に過ぎるし、更地価格を算出する過程で面積が過大であることによる減額を認めていないのも不当である。また、本件土地の経済的価値が保たれたのは控訴人らによる貢献があったからであって、差益分配法を採用するに際してその貢献を三分の二としているのは不合理である。さらに賃貸事例比較法において近傍類似の賃貸事例に控訴人組合が借地人である他の借地の事例を考慮していないのは客観性に欠ける。

3  被控訴人は、控訴人田邊を本件土地から退去させ、あるいは底地を売却するために本件土地を取得したものであり、本件の賃料増額もそのための手段であって権利濫用というべきである。

二  控訴人らの補充主張に対する被控訴人の反論

1(一)  本件の賃料の不相当性は、公租公課との比較ばかりではなく、その他の事情も含めて勘案すれば明らかであるが、賃料が公租公課を下回るというのは賃料の不相当性を根拠付ける大きな理由である。また、控訴人組合が組合の力で低廉に抑えてきた周辺の賃料を近傍類似の賃貸事例として考慮しないのは当然のことであって、その点に関する本件鑑定は相当である。

(二)  本件の賃借権は通常の賃借権であって何ら特殊なものではなく、控訴人らの主張する合意の効力は被控訴人には及ばない。

2  本件鑑定が採用している期待利回り二・五パーセントはむしろ低すぎるというべきであり、本件土地の面積が減額要因となるものではない。また、本件鑑定が採用した差益分配法で正常賃料と実際賃料の差額の配分につき地主側が三分の一というのは本来低すぎるのであり、少なくとも借地人側により多く分配する必要はない。

3  権利濫用の主張は争う。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人組合に対する請求は、本件土地の賃料が平成八年一月一日から同年七月三一日までは一か月六万六八六一円、同年八月一日以降は一か月一四万〇二八二円であることの確認を求める限度で理由があり、その余の被控訴人組合に対する請求は棄却されるべきであると判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決書一〇頁七行目の「六、」の次に「一六、一七、」を加え、同九行目の「大正一二年」を「大正一二、三年ころ」に改め、一四頁一行目の「被告組合が」から同頁七行目の「できない上、」までを削り、一六頁七行目末尾に「(なお、以上の計算はいずれも円位未満を切り捨てている。)」を、一七頁一〇行目の「以内とし」の次に「(右はいずれも公法上の規制どおりではあるが)」をそれぞれ加え、二一頁六行目の「3」を「4」に改める。)。

1(一)  控訴人らは、本件の増額請求が借地借家法一一条の要件を充たさない旨主張するが、増額の意思表示がされた平成八年八月一日当時、本件土地の賃料は昭和六三年四月一日以来据え置かれ、本件土地に課される固定資産税及び都市計画税の額にも達せず、近隣の賃料と比較しても低額であったことは前述のとおりであり(原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」二の1、2)、本件土地の賃料が不相当なものであったことは明らかである。

なお、控訴人らは、一時的に公租公課の額が賃料額を上回ったとしても、単にそれだけで賃料を不相当とすることは法の趣旨に反すること、また、比較する近隣の賃料には控訴人組合が賃借人であるものも含めて考えるべきであることを主張しているが、賃貸人が負担する公租公課の額が賃料を上回る事態は特段の事情のない限り賃料額が相当ではないことの現れというべきであるし、控訴人組合が賃借人である周辺土地の賃料は、本件土地の賃料と同一の経過で合意されたものであるから、賃料増額請求の要件である賃料の不相当性を判断するに際してこれを比較の対象から除くのはむしろ当然というべきである。

(二)  また、控訴人らは、控訴人組合と地主全体との間で毎年行われる交渉によって賃料を合意することとされており、被控訴人もこの合意の効力を受けると主張する。

乙一六には控訴人組合代表者の陳述として「組合内の各地主の土地の固定資産税や土地の評価がばらばらで画一的ではなくても、組合側はすべての組合員について全地域を一律に、地主側の個別事情を考慮することなく、統一した同一賃料で事務的に地主組合の会計に支払う形で今日に至りました。」との記載があり、右書証のほか乙一ないし三、弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人組合と本件土地も含めた周辺土地の地主との間では長年そのような取扱いが行われていたことが認められる。そして、右のような取扱いをすることは暗黙裡に控訴人組合が地主との間で締結する賃貸借契約に付随する内容とされていたことが窺え、これは次年に控訴人組合と地主との間で賃料の協議がされるまでの間は合意された賃料によって賃貸借契約を継続することの合意、すなわち借地借家法一一条ただし書きの賃料不増額の合意としての性質を有することも否定できない。したがって、その側面では賃貸人の地位に承継が生じた場合であっても新賃貸人に右合意の効力が及ぶと解するのが相当であるが、次年になって地主との協議が行われない場合、あるいは協議が調わない場合については右合意の範囲外というほかない。このような場合には被控訴人組合と地主との賃料の協議の手続を経ずとも、借地借家法一一条所定の他の要件があれば同条による賃料の増額請求をすることができるというべきである。

そして、本件では先に認定したように控訴人組合と地主との協議も行われないまま直近の賃料改定から既に八年以上が経過し、賃料額は公租公課にも及ばないものとなっていたのであるから、右合意によって賃料増額請求を排斥することはできないといわなければならない。

(三)  また、控訴人組合は、本件土地の面積が過大であることによる減価がされていないこと、本件鑑定が採用している期待利回りが高率に過ぎること、三分の一法の採用が不当であること、近傍類似の賃貸事例に控訴人組合が借地人である例を考慮していないのは客観性に欠けることを主張しているが、これら主張が失当であることは前述のとおりである(原判決「事実及び理由」第三の三の2の(二)、(三))。

2  控訴人らは本件の賃料増額請求が権利の濫用であると主張するところ、証拠(乙四、八の1、2、一〇の1、3、一一、一五の1、2、一七、一八の1、2)によると、被控訴人は平成七年一二月二五日に本件土地の所有権を取得すると、平成八年三月二七日には控訴人組合に対して期間満了による更新拒絶の意思を伝えると共に、そのころ本件土地の半分の所有権と借地権との交換を申し入れ、これが控訴人組合によって拒絶されると同年七月三一日に更新料として一坪当たり月二〇万円の更新料(総額で約四〇〇〇万円)の支払と一坪当たり一五〇〇円の賃料(総額で約三〇万円)の支払を求め、更に控訴人田邊に対しても直接土地の明渡しを求めたこと、これら被控訴人の要求が拒絶された後土地明け渡しの調停の申立てをしたことが認められる。そして、これら被控訴人の要求は、借地契約の期間の到来を利用して被控訴人に有利な条件によって借地権を消滅させ、あるいは借地条件を変更しようとしたものであり、本件の賃料増額請求もそのような行為の一環であることは推察できる。しかし、これだけの事情で賃料増額の意思表示や本訴の提起が権利の濫用だということはできない。

二  転借人は原賃貸借契約の賃料の増減によって影響を被ることがあるとしても、それは事実上のものにすぎず、本件においては原賃貸借の賃料がそのまま転貸借の賃料とされるという事情はある(乙一)ものの、この点を含め転借人である控訴人田邊に対し原賃貸借契約の賃料額の確認を求める利益があるとすべき事実関係を認めることはできない。

したがって、控訴人の被控訴人田邊に対する訴えは確認の利益を欠き不適法である。

また、平成八年一月中旬に被控訴人から控訴人組合に対して賃料増額の意思表示があったことを認めるに足りる証拠のないことは前記のとおりであるから(原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」一)、被控訴人の控訴人組合に対する請求のうち平成八年一月一日から同年七月三一日までの賃料額の確認を求める部分は理由がなく、これを棄却すべきである。

第五結論

よって、被控訴人の控訴人田邊に対する訴えは不適法として却下すべきであるから、この部分については原判決を取り消し、また、控訴人組合の控訴に基づき原判決を主文三項のとおり変更した上、控訴人組合のその余の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条一項、二項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)

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